第2回ハウスアダプテ−ションコンクール優秀賞受賞(2003.06)<ハウスアダプテ−ションコンクール審査員講評>

 

それぞれ自分らしく、共に暮らすいえ


 この家は、下半身麻痺で車いす生活を余儀なくされている当事者である夫人 が、自分の身体機能の現状維持、向上を目指して夫とともに研究し様々な工夫 を凝らしてきた、その中の大きなプロジェクトであったといえる。闘病生活の なかで自分自身を客観的に見つめ、どのような介護機器が自らに適しているの かを調べて、積極的にそれを利用してきている。その知識は、専門家に勝ると も劣らず、今回の計画においても積極的に意見を述べている。介護は主に夫が 行ってきたが、福祉サービス制度や介護機器をうまく利用しており、経済的に も精神的にも生活にゆとりが感じられる。今回の計画は、高齢化による夫の体 力の衰えに備えて住宅内外のバリアを解消することと、孫と一緒に生活をさせ たいという息子世帯との同居を可能にすることが大きな目的であるが、それら は見事に解決されているといってよい。


 敷地は東南に面して緩やかに傾斜する角地の立地条件をうまく生かし、法規上 可能な範囲で最大限の空間が生み出されている。完全同居型のプランである が、吹き抜けのリビングダイニングを中心に孫の遊び空間、息子の仕事コー ナーなどが確保され、家族間の良好なコミュニケーションを生み出すと同時 に、スキップフロアにより、世帯間のプライバシーは十分に確保され、さら に、車いすのまま出られる広いデッキ、地階には各世帯用の接客空間、夫の息 抜き部屋など豊かな空間も加えて、ご夫婦を中心とした2世帯同居の生活の場 として見事に機能していることがうかがえた。また夫人の寝室に面したこの デッキは、ヘルパー用出入り口ともなっており、これによって、ヘルパーの動 線は他の家族の生活と独立している。


 当事者が出来ることは、身体的に限られているが、車いすでの洗いものを可能 にしたキッチン回り、自分で洗濯ができるスロップシンクと洗濯機のコー ナー、 本人一人の在宅時に来るヘルパーのための出入り口と鍵への配慮など夫 人の希望と身体寸法に合わせてきめ細かく配慮された設計が行われている。


 またシャワー用いすを座ごと吊り上げて移動し、そのまま入れる広く深い浴 槽、ベッドの頭部に集中させた各種のコントロールボタンなどの先端的な介護 機器や共用品の住空間への適切な配置と、巧みなディテールで介護の労力は大 幅に軽減され、夫をはじめとする家族の生活に余裕を生んでいる。


 今回の計画を契機に積極的に家事に参加するようになり、そのことが、ともす ればナーバスになりがちであった当事者を明るくする効果をもたらした。生活 の場を自分に合わせてつくろうとする研究熱心で意欲的な当事者と、ディテー ルまできめ細かく設計する設計者との出会いの成果と考えられる。工費がやや 高めであるが、これは地階を設けたことと、自然素材にこだわる建て主の意向 に沿った設計仕様の結果であり、本事例はローコストを目指す計画に対しても 十分に適用可能な好事例であると考えられる。なお、設計者は町田市で高齢者 ・障害者の住宅改造にかかわるNPOの活動を行っている。